プロジェクト概要
科研費基盤研究(A)
トランスナショナル時代の人間と「祖国」の関係性をめぐる人文学的、領域横断的研究
難民や移民など人間の生の経験が地球規模で国境横断的に生起する今日、人間は「祖国」なるものと様々に、痛みに満ちた関係を切り結んでいる。ネイションを所与と見なし、その同一性に収まらぬ者たちを排除する「対テロ戦争パラダイム」が世界を席巻するなか、本研究は、中東を中心に世界の諸地域を専門とする人文学研究者が協働し、文学をはじめとする文化表象における多様な「祖国」表象を通して、人文学的視点から、現代世界において人間が「祖国」をいかなるものとして生き、ネイションや地域を超えて、人間の経験をグローバルに貫く普遍的な課題とは何かを明らかにし、新たな解放の思想を創出するための基盤づくりを目指す。
研究メンバー
研究代表者
岡 真理
(早稲田大学 文学学術院 教授)
- 【専門】
- 現代アラブ文学/パレスチナ問題
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 人間にとって祖国とは何か——ガッサーン・カナファーニーが「ハイファに戻って」において提起したこの問いを、現代世界に生きる人間の普遍的問として考究すること
- 【著作】
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- 『ガザに地下鉄が走る日』(みすず書房、2018年)
- 『アラブ 祈りとしての文学』(みすず書房、2008年/新装版2015年)
- 【翻訳】
- ターハル・ベン=ジェルーン『火によって』(以文社、2012年)
研究分担者 (五十音順)
阿部 賢一
(東京大学大学院 人文社会系研究科 准教授)
- 【専門】
- チェコ文学/東欧
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
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- 亡命文学/移動文学/都市における複数文化
- ジプシー・ロマの文学
- 【著作】
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- 『複数形のプラハ』(人文書院、2012年)
- 『カレル・タイゲ ポエジーの探求者』(水声社、2017年)
- 【翻訳】
- ヴァーツラフ・ハヴェル 『力なき者たちの力』(人文書院、2019年)
石川 清子
(静岡文化芸術大学 文化政策学部 名誉教授)
- 【専門】
- フランス語マグレブ文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- フランスにおけるマグレブ出自の人々にとってのワタン
- 【著作】
-
- 【翻訳】
- アシア・ジェバール『愛、ファンタジア 』(みすず書房、2011年)
鵜飼 哲
(一橋大学大学院 言語社会研究科 名誉教授)
- 【専門】
- フランス文学・思想
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 〈祖国〉の重層性・文明/文化/国家/地域/家族への個人の複合=分散的帰属の分析(フランス、アルジェリア、東アジア)
- 【著作】
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- 「多角形の祖国—カテブ・ヤーシーヌとアルジェリア文学の誕生」『aala季刊』(アジア・アフリカ作家会議 1993年11月)
- 『まつるわぬ者たちの祭り——日本型祝賀資本主義・批判(インパクト出版会、2020年)』
鵜戸 聡
(明治大学 国際日本学部 専任准教授)
- 【専門】
- アルジェリアを中心とするマグリブ・アラブ=ベルベル文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- フランスに移民した第二・三世代の作家によるアルジェリア独立戦争の小説化と90年代の内戦を扱ったアルジェリア国内の新しい小説群の対比的かつ批判的検討。
- 【著作】
- 「世界」『クリティカル・ワード 文学理論』(フィルムアート社、2020年)
呉 世宗
(琉球大学 人文社会学部 准教授)
- 【専門】
- 在日文学、韓国文学/日本・韓国
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 1960年代在日朝鮮人文学の動向(金達寿、金石範、金時鐘を中心に)
- 【著作】
-
- 『沖縄と朝鮮のはざまで』(明石書店、2019年)
- 『リズムと抒情の詩学』(生活書院、2010年)
岡崎 弘樹
(亜細亜大学 国際関係学部 多文化コミュニケーション学科 講師)
- 【専門】
- アラブ政治思想、シリア文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
-
- 祖国と暴力の関係性
- アラブ近代史における「ワタン」概念の変遷とその今日的意義の思想的・文学的言説分析
- 【著作】
-
- 【翻訳】
- ヤシーン・ハージュ・サーレハ『シリア獄中獄外』(みすず書房、2020年)
久野 量一
(東京外国語大学大学院 総合国際学研究院 准教授)
- 【専門】
- キューバ文学/ラテンアメリカ
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
-
- 「冷戦の孤児」としてのキューバ人
- 1960年代以降のキューバとアフリカの関わり
- 【著作】
- 『島の「重さ」をめぐって——キューバの文学を読む』(松籟社、2018年)
- 【翻訳】
-
- エドゥアルド・ガレアーノ『日々の子どもたち あるいは366篇の世界史』(岩波書店、2019年)
- カルラ・スアレス『ハバナ零年』(共和国、2019年)
新城 郁夫
(琉球大学 人文社会学部 教授)
- 【専門】
- 近現代沖縄文学、日本文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
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- 戦後沖縄文学および戦後沖縄思想におけるコミュニティ生成研究
- 郷土意識生成に関する近代沖縄文学と近代日本文学の比較研究
- 【著作】
-
- 『沖縄に連なる——思想と運動が出会うところ』(岩波書店、2018年)
- 『沖縄の傷という回路』(岩波書店、2014年)
- 『沖縄を聞く』(みすず書房、2010年)
鈴木 克己
(東京慈恵会医科大学 医学部 教授)
- 【専門】
- ドイツ文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 様々な背景をもった作家たちの異教的なものとドイツのなかで染みついたものとの対峙
- 【著作】
-
田浪 亜央江
(広島市立大学 国際学部 准教授)
- 【専門】
- パレスチナ文化研究、パレスチナ文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
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- オスマン末期から委任統治期のシリア/パレスチナ出身者が、旅のなかでどのように〈ワタン〉を見出したか
- アラビア語のDiyaafa(もてなし/歓待)の主体である共同体とワタン概念の関係
- 現代のパレスチナのトレッキングやハイキング、エコツーリズムブームのなかでのワタンとその文化表象
- 【著作】
-
中村 菜穂
(大阪大学大学院 人文学研究科 助教)
- 【専門】
- 現代イラン文学、イラン
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 19-20世紀のイランの歴史において「祖国」という主題・問題がどう変遷してきたのか
- 【著作】
-
- 【翻訳】
-
- ナーデル・ナーデルプール「詩人の運命」『中東現代文学選2012』(中東現代文化研究会、2013年、pp.202-220)
- フーシャング・ゴルシーリー「黒衣の民の王」『中東現代文学選2016』(中東現代文化研究会、2016年、pp.81-102)
宮下 遼
(大阪大学大学院 人文学研究科 准教授)
福田 義昭
(大阪大学大学院 人文学研究科 准教授)
- 【専門】
- アラビア語・アラブ文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
-
- 【著作】
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藤井 光
(東京大学大学院 人文社会系研究科 准教授)
- 【専門】
- 北米文学、英語文学/北米・英語圏
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
-
- アメリカの移民作家たちと「歴史」との関わり
- 東南アジアの英語文学
- 【著作】
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- 『ターミナルから荒れ地へ』(中央公論新社、2016年)
- 「「偶然の土着性」と二一世紀アメリカ作家たち:交換と共感をめぐって」(『クライテリア』2号、2017年、pp.8-17)
- 【翻訳】
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- ハサン・ブラーシム『死体展覧会』(白水社、2017年)
- リン・マー『断絶』(白水社、2021年)
- アルフィアン・サアット『マレー素描集』(書肆侃侃房、2021年)
藤元 優子
(大阪大学大学院 人文学研究科 名誉教授)
- 【専門】
- イラン文学、イラン
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
-
- イランの小説に見られる、女性、LGBTQの人々、人種的、宗教的マイノリティなど、一つの国家や共同体の中で既に疎外されている人々にとってのワタン
- 物理的、精神的ディアスポラと文学作品
- 【著作】
-
細田 和江
(東京外国語大学 アジア・アフリカ言語文化研究所 フェロー)
- 【専門】
- イスラエル文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
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- イスラエルのパレスチナ人とアラブ諸国出身のユダヤ人作家のワタン観の比較
- 台湾文学の多言語状況(台湾語、中国語、日本語)との比較
- 【著作】
-
細見 和之
(京都大学大学院 人間・環境学研究科 教授)
- 【専門】
- 独・ポーランド・ユダヤ文学および思想
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
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- ポーランドのユダヤ系詩人・戯曲家イツハク・カツェネルソンのヘブライ語作品におけるシオニズム
- パウル・ツェランの作品における「ワタン」
- ツェランと金時鐘を、ユーラシア大陸の西と東で同時代に紡がれた〈世界文学〉として、「ワタン」の視点で読む
- 映画『ショア』と「ワタン」の関係
- 石原吉郎における「ワタン」
- 【著作】
-
- 『「投壜通信」の詩人たち—〈詩の危機〉からホロコーストへ』(岩波書店、2018年)
- 『石原吉郎—シベリア抑留詩人の生と詩』(中央公論新社、2015年)
- 『ディアスポラを生きる詩人 金時鐘』(岩波書店、2011年)
山本 薫
(慶應義塾大学 総合政策学部 専任講師)
- 【専門】
- アラブ文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
-
- エミール・ハビービーをはじめとする、故国喪失を経験したパレスチナ人作家・アーティストたちの作品にみるワタン
- レバノン内戦・シリア革命など、破綻の中から想起される・構想されるワタン
- 移民文学(特にアミーン・リーハーニー)
- 【著作】
-
- “The Burden of Memory: Writing Memories of War in Postwar Lebanon”, Hidemitsu Kuroki, ed., Human Mobility and Multiethnic Coexistence in Middle Eastern Urban Societies 2, pp. 247-258, ILCAA, Tokyo University of Foreign Studies, 2018.
- “Writing the Civil War: Lebanese Writers’ Perspectives on a Precarious Coexistence”, Hidemitsu Kuroki, ed., Human Mobility and Multiethnic Coexistence in Middle Eastern Urban Societies 1, pp.149-166, ILCAA, Tokyo University of Foreign Studies, 2015.
- 「ハイファの作家、エミール・ハビービー : 都市の記憶としての文学」『日本中東学会年報』第23-2号(日本中東学会、2008年、pp.171-191)
- 「ハイファにとどまる エミール・ハビービーのワタン(Watan/Homeland)」『ワタン(祖国)とは何か 中東現代文学におけるWatan/Homeland表象』pp.311-322
研究協力者(五十音順)
天野 優
(日本学術振興会 特別研究員)
- 【専門】
- イラクのユダヤコミュニティ、イスラエル文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- イラク出身ユダヤ人/知識人の、イスラエル移住前と後における文学、言論
- 【著作】
-
石井 啓一郎
(翻訳家、独立研究者)
- 【専門】
- ペルシア語/トルコ語/アゼルバイジャン語現代文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
-
- イランにおけるマイノリティとしてのアーザリー人あるいは「トルコ人」の民族意識と国民的帰属意識の関係
- 旧ソ連のスターリン時代から独立後を通じてのアゼルバイジャン文学や舞台芸術における民族的表現(ワタン意識)と政治の関係
- トルコの「亡命詩人」ナーズム・ヒクメットにおける「ワタン」
- イランのヘダーヤトの生涯を通じたワタン像
- 【著作】
-
磯部 加代子
(トルコ語クルド文学翻訳家、トルコ語通訳)
- 【専門】
- トルコ語クルド文学、クルディスタン
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 在日クルド人難民の生
- 【著作】
-
イルファン・アクタン
(ジャーナリスト)
- 【専門】
- マイノリティの人権問題
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- クルド、マイノリティ、社会的弱者とワタン
- 【著作】
-
- Zehir ve Panzehir; Kürt Sorunu: Faşizmin Şartı Kaç? , Dipnot Yayınları, 2006. (『毒と解毒剤:クルド問題』)
- Nazê, Bir "Göçüş" Öyküsü, Iletisim Yayincilik, 2005. (『Nazê ある移住の物語』)
小野田 風子
(大阪大学大学院 人文学研究科 特任助教)
- 【専門】
- タンザニア文学・スワヒリ文学/アフリカ
- 【研究テーマ】
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- 多民族国家タンザニアにおける国家形成と国民統合過程
- タンザニア独立後の国家運営とスワヒリ語文学(主に詩)の関係
- 【著作】
-
栗原 俊秀
(イタリア文学者・翻訳家)
- 【専門】
- イタリア・ルネサンス文学、移民文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- エリトリア生まれのイタリア人作家エルミニア・デッローロの生と作品
- 【著作】
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- 【翻訳】
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- アントニオ・スクラーティ『小説ムッソリーニ 世紀の落とし子』(河出書房新社、2021年)
- ゼロカルカーレ『コバニ・コーリング』(花伝社、2020年)
- カルミネ・アバーテ『偉大なる時のモザイク』(未知谷、2016年)
佐藤 愛
(英語翻訳者・通訳者)
- 【専門】
- 米国等英語圏のアラブ系文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 英語圏のマイノリティ詩人におけるhome のイメージ(アラブ系の難民・移民詩人を中心に、とくに女性に注目して)
- 【著作】
-
新郷 啓子
(フランス語、スペイン語翻訳家)
- 【専門】
- 西サハラ
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 1983年以来行っている西サハラ解放支援活動の過程で、サハラーウィとの交流や情報資料から得たものを文章化し、紹介に努める。
- 【著作】
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- 『抵抗の轍 - アフリカ最後の植民地、西サハラ』(インパクション出版会、2019年)
- 『蜃気楼の共和国?: 西サハラ独立への歩み』(現代企画室、1993年)
- 【翻訳】
- 共訳 ヴラディーミル・チェルトコフ『チヱルノブイリの犯罪』(緑風出版、2015年)
鈴木 珠里
(中央大学 総合政策学部、上智大学 言語教育研究センター 非常勤講師)
セルダル・ジャーナン
(クルド民謡研究者・音楽民族学者)
- 【専門】
- 民族音楽学、特にクルドの民謡
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- クルド音楽の歴史・奏法、音楽とワタン
- 【著作】
- 「ハッカリ及び周辺地域の伝統民族舞踊とその音楽的特徴」(2019年にミマール・スィナン芸術大学(トルコ、イスタンブル)に提出の修士論文)(トルコ語)
竹田 敏之
(立命館大学 立命館アジア・日本研究機構 准教授)
- 【専門】
- アラビア語学、イスラーム地域研究
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 湾岸アラブ諸国/モーリタニアにおける詩の伝統と国民アイデンティティの形成
- 【著作】
-
濱崎 友絵
(信州大学人文学部 准教授)
- 【専門】
- 音楽学、音楽文化論
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
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- トルコの近現代音楽史
- ヨーロッパのトルコ系移民社会や日本における音楽伝統の継承プロセスとメカニズム
- 【著作】
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- 「感性を『統合』する――国民音楽からトルコ民俗音楽へ」(小笠原弘幸編『トルコ共和国 国民の創成とその変容』、 九州大学出版会、 2019)
- 『トルコにおける「国民音楽」の成立』(早稲田大学出版部、2013)
森 晋太郎
(アラビア語通訳・翻訳家、東京外国語大学 非常勤講師)
- 【専門】
- アラビア語、アラブ現代文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- シリア・レバノン現代文学における祖国
- 【著作】
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- 「牢獄の壁の落書き——包囲下の街で ムスタファー・タージュッディーン・ムーサーの編世界」(『中東現代文学リブレット2シンポジウム「現代世界—欧州・中東—を《文学》から考える」』中東現代文学研究会、2018年)
- 「牢獄の壁に描く太陽—ムスタファー・タージュッディーン・ムーサーの短編世界」『中東現代文学リブレット3「《文学》からシリアを考える」』(中東現代文学研究会、2018年、pp.11-26)
- 【翻訳】
-
- M・T・ムーサー「なんていい人たち ほか一篇」(『中東現代文学選2016』中東現代文学研究会、2017年、pp.215-224)
- R・ダイーフ「親愛なるカワバタ様」(『中東現代文学選2012』抄訳、中東現代文学研究会、2013年、pp.324-354)
柳谷 あゆみ
(公益財団法人東洋文庫研究員、上智大学アジア文化研究所共同研究員)
- 【専門】
- 中世イスラーム政治史(ザンギー朝)、現代アラブ文学
- 【プロジェクトに関連する研究テーマ】
- 現代アラブ文学翻訳・現代アラブ文学におけるワタンの表象
- 【翻訳】
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- サマル・ヤズベク『無の国の門 引き裂かれた祖国シリアへの旅』(白水社、2020年)
- アフマド・サアダーウィー『バグダードのフランケンシュタイン』(集英社、2020年)
- ザカリーヤー・ターミル『酸っぱいブドウ/はりねずみ』(白水社、2018年)